第二回インタビュー : 国際協力機構 竹内元様

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国際協力機構 アメリカ合衆国事務所 所長

竹内 元さん

座論第二回インタビューでは、JICAアメリカ合衆国事務所長 竹内元氏にお話を伺った。JICA(国際協力機構)はODA(政府開発援助)の実施機関であり、竹内氏は長年中南米を中心としたODA業務に携わってこられた。本インタビューでは、日本のODAの実態やJICAの業務に関して、そして竹内氏のご経験を伺い、また、コロンビア大学(米国)に留学をされていた経験から、留学中の日本人学生へ向けてメッセージをいただいた。

日本政府のODAの取り組みと方針

・まずは、ODAとはどのようなものなのかという事を教えて頂けますか

ODAにはまず日本政府の政策という大きい政策があり、そういった政策は例えば経済成長戦略やアベノミクスとも関係があります。大きな政策は官邸や首相が決め、外交政策としてのODA政策を外務省が決め、その実施をJICAが行います。それがさらに細かく特定の国やセクターへの対策に分かれます。外務省が最終決定するにあたってJICAは必要な情報を提供したり、意見交換をしたりします。JICAは政府決定に従ってODA政策を実施していくことになるので、JICAの今年の目標はおのずと政府の掲げている援助の目標を実施するということになります。例えば、外務省が毎年作っている国際協力重点方針というものがありますが、これを実施する上で、JICA の内部で具体的な対策を決定します。今年度の重点方針は以下の通りです。

1.  日本にとって好ましい国際環境を作るためのODA

2.  新興国・途上国と日本が共に成長するODA

3. 人間の安全保障を推進し日本への信頼を強化するODA

・実際にプロジェクトを決定する際には、ODAの実施機関であるJICAと外務省、政府の関係はどのようになっているのでしょうか。

無償資金協力であろうと、技術協力であろうと、有償資金協力であろうとプロジェクトの実施を最終決定するのは政府です。しかし、 最初にODAのプロジェクトの種ができるのは援助対象国の現地である事がほとんどです。プロジェクトは多くの場合相手側の政府から提案され、まずはODAタスクフォースという現地での会議の場でプロジェクトについての相談が行われます。現地政府からアイデアを受け取った後、政府に提出するためのプロジェクト案として調整するために、JICAの現地事務所に日本大使館も加わり、そこでアイデアをある程度現実味のあるものにします。

そこで決定したアイデアは東京に送られます。その中身をJICA本部でチェックし、実際にそれをプロジェクトにすることができるかを考え、それから更に日本政府と相談します。我々はこの段階では情報を提供し、技術的な内容を確認するということを全部します。これはできそうですとか、こういう意義がありますという話を日本政府に持ち込んで、それを最終的に政府が決めるというような形になっています。最終的にはこれらの案件は政府が決定し、正式に日本政府のODAとしてのプロジェクトとなります。

ODAの目標や方針はどのように決定されるのでしょうか。

ODAには様々な方針があり、まず、ODA大綱というものがあります。これはODA政策でいうところの憲法みたいなもので、最も重要とされています。最近丁度この大綱が見直されていて、日本が軍事関係の組織に対してもODA供与を行うことが検討されているというような新聞記事も出ています。その次に5年ぐらいでかわる中期政策があり、その次に国別、分野別の重点方針という毎年作る方針があるという構造になっています。加えて、事業展開計画があり、それぞれの国ごとに5年先までどのようなプロジェクトが行われるのか決められています。

今後のODAの方針は、日本政府が今後ODAをどう活用していくかによります。 日本の国益を考えた上で援助を行うということが最近の傾向として明確になってきているように思えます。援助を実施している立場では、ODAの究極の目的は貧しい人たちをなくすということで、人間の安全保障の考え方が底辺にあると思いますが、その上で最近は日本と途上国両方の利益の追求という目的があります。その他、政策は社会情勢にあわせて変わります。

・では、日本はどのような地域でのODA事業に最も力を入れているのでしょうか。

累計的にみても日本のODAはアジアが中心です。日本はアジアの国の一つですから、技術協力、無償資金援助、有償資金援助の全てにおいてアジアが占める割合が一番大きくなっています。 技術協力と無償資金援助ではアフリカが二番目に多いです。有償資金援助はある程度資金を使えて返すことができる国に行うということからすると、アフリカは技術協力や無償協力が適しています。返せないからといって何もしないのではなく、無償資金協力や技術協力といった形で援助をします。

JICAの事業と組織について

・実際にJICAはどのように事業を実施しているのかという事を教えてください。

様々なパターンがありますが、ひとたび事業が始まるとほとんど各地域や国のJICA事務所がそれらの業務の監理をします。東京の本部は大きな変更があったりする場合の判断を行います。

JICAの 業務の分類としてはまず、「有償資金協力(円借款)」という、お金を貸すものがあります。そして「技術協力」では 、日本から日本人の専門家を現地に派遣して現地の人たちに様々な技術 を教えるという業務を行います。技術協力をするときは、人だけではなく、活動に必要な自動車やコンピューターなどの物と共に提供することもあります。「無償資金協力」というものもあり、無償資金というのはお金を返してもらわなくていい資金という意味ですが、お金をそのまま提供するのではなくて、物や設備で提供しています。例えば、日本企業が現地に行き、学校や橋を建設するといったものです。我々は大きくこの「有償資金協力」「技術協力」「無償資金協力」の仕事と、それに加えてさらに「緊急援助」と「青年海外協力隊」をしています。最初の3つの中でプロジェクトを考えたときには、ひとたび案件が決まるとほぼ現地のJICA事務所で進めることになります。もし何かあった場合には、東京の本部に相談します。

JICAは近年どのような事業に力を入れていますか。

最近特に力を入れているっていう意味でいうと、防災と気候変動関係のことに最近は力をいれています。特に最近東北で大地震があった事に加えて、日本はそもそも災害によく遭う国ですので、防災に関する技術が世界的に見ても進んでいます。そういった技術で世界にお返ししたいということで、JICAは防災分野の技術協力も結構行っています。

防災といってもいくつか種類がありますが、例えば地震なら、耐震建築等の技術協力や地震の情報をいちはやくキャッチして津波の予報を出すこと等の援助に近年は力を入れています。

JICAの組織内部について、中にはどのような部署があって、どういったように事業が分担されているのですか。

JICAにはたくさんの部署があります。JICAはもともとは国際協力事業団という昔のJICAと昔のJBICという国際協力銀行の中の有償資金協力を行っている機関が統合してできた組織です。そういった理由で、広い分野を扱っていることから多くの部署があります。

部署には、例えばアジアやアフリカといった地域を担当するものと、専門・技術を担当するセクター担当があります。例えばアジアのある国の事業を見ると、地域を見ているのは国担当のエコノミストですが、事業の技術面を担当するのは例えば農業の専門知識を持っている人になります。

プロジェクトを考えるときは、まず世界で90個ぐらいあるJICAの現地事務所にいる主に地域専門の人たちが相手の国の人たちと現地レベルで話し合って計画を立てます。その際、実際の技術や専門知識の中身を見るにあたってはセクターのそれぞれの専門の人に話を聞いたりもします。地域や国を見る人とセクターの人はお互いに情報を融通し、一緒にプロジェクトを考えて実行していきます。

・開発事業において、JICAと民間事業者ではどのように役割が違うのでしょうか。

民間企業は利益を得るために営業活動をしますが、我々はその事業が良い効果を生むことは考えていますが、短期的に利益を求めることは考えていません。短期的、金銭的な利益を求めているわけではないというところがJICAと民間の大きな違いです。我々は民間企業と競争しているわけではありません。

むしろ、日本の民間企業が海外で活躍してもらう土台を作るという事は、我々が業務としてやらなければならない事でもあります。開発途上国が発展して行くのに必要なお金は莫大なので、日本政府や他国政府から援助だけのお金では賄えなく、民間の人が入ってくれないと達成できない事も非常に多くあります。なので、援助国の経済活動に日本の民間事業者が入ってきてもらうためにはどういうことをすればいいのかということも我々は考えないといけないのです。例えば、制度がきちっと整備されていないと民間企業は危なくて投資できません。

我々の役目は援助することでもあるし、民間企業のお金が入っていけるようにして、それによって援助と同じ効果があがるようにするということでもあります。

・開発事業には専門知識が不可欠だと思いますが、JICAでは職員の専門性はどのようにして確保しているのでしょうか。

我々の業務には様々な専門知識が必要とされます。職員の採用にはいろんなパターンがありますが、新卒で採用される場合は日本の大学を普通に出た人が高い専門性を持っているということは稀で、実際に業務を行う上では、経済学部であろうが法学部であろうが学部レベルの知識では不十分です。そのため、業務に必要な専門知識はJICAに入ってから身につけてもらいます。そのために多様な研修の制度も存在し、基礎的な経済学などはその研修の時にやります。その研修以外のところでは、仕事しながらいろいろ勉強してもらうということになります。

また、所属している部署から他の部署への異動は必ずあります。文科系の人間も専門的なセクター担当の方に行くことがあり、例えば、保健、医療や技術関係の部署にも文科系の人が移ることは起こり得ます。ただ、回されるうちに自分の専門性が出来てきて、その軸を中心にして回されるようになります。例えば、私の場合は中南米地域という専門性を中心に回っています。

・治安の悪い地域での事業も避けて通れないと思うのですが、そのような場合、職員の安全性はどのようにして確保していますか。

本当に危なくなったらその地域から撤退しますが、日常的に安全が確保できるようにかなり努力しています。本当に危険な地域では日常の行動にも制約もかけ、がっちりガードされることになります。東京では全世界の状況をモニターしていて、どこでなにがおこっても24時間対応できるようになっています。職員が業務中に命を落とすような危険に遭遇するということはほとんどありません。昔、職員がゲリラに狙われてしまったケースが中南米でありましたが、そういうごく少ない例を除けば、重大な事件に巻き込まれるということはほとんどないです。

他機関との交流とJICAアメリカ合衆国事務所

JICAでは国連や世界銀行など、他の国際機関は連携があるのでしょうか。

JICAは、国連や世界銀行等の国際機関と頻繁に連携を取っています。つい先日も世銀の総裁が東京に行き、JICAの理事長と会合をしていますし、年に1回の世界銀行の総会の時には東京からJICAの職員がきて協議をする予定です。

そのようなイベント時ではなくても、個別の業務レベルでそれぞれの対象国で世銀の事務所の人たちと我々JICAの事務所の人たちが情報交換をするのは、実は日常的に行われています。各国ではドナー会合というのものがあって、そこにはもちろんドナーだけではなくて受け入れ側の途上国の方も参加するのですが、そういうところでの話し合いもしています。この様にいろんなレベルで、つまりプロジェクトを実施している現地でも、本部レベルでも、トップ同士でもJICAと世界銀行の連携はありますし、一緒にやった方がいいという案件があれば共同で事業を行い、世銀の方が進んでいるような案件があればそこから情報をもらったりしています。

・このJICAアメリカ合衆国事務所ではどのような業務を行っていますか。

まずこのワシントンDCにある事務所には先進国事務所という大きな特徴があります。JICAの事務所で先進国にあるのは実は珍しいです。アメリカ合衆国事務所は一つもプロジェクトを扱っておらず、その代わりに世界銀行やIMF、IDBといった国際機関との実務レベルの対話をコーディネートしています。また、DCにはシンクタンクがたくさんありますから、そういった機関との間で協力を行ったり、他の教育機関や研究機関のレクチャーを聞いて情報を送ったり、反対にそういうところで我々が話して情報発信をするということをしています。ここはニューヨークも管轄地ですので、ニューヨークにある国連本部で行われている議論を報告したり、実際に聞きに行ったり、参加したりもしています。

中南米地域へのODA―日本にとって特別な地域として

・中南米地域において、日本はどのようなODAを行ってきたのかを教えて頂けますか。

中南米地域は決して日本のODAで主要な供与地域ではなく、日本のODA支出の約6%~8%しか占めていません。しかし、中南米の国々は日本にとって特別な地域です。それは、日本に対して親日的な感情を持っており、且つあまり利害関係がないという特徴を持っているからです。アジアなどを見ても、そのような国は実は多くありません。いざという時に移民を受け入れてくれた国であり、日本人は現地でとても尊敬されています。中南米の国々は鉱物・食糧資源が豊富で、日本にとっては重要な国です。

日本はそれらの地域を着実に援助してきています。少し前までは環境問題に取り組んでおり、環境関係の円借款を出し、上下水道・水関係などの大きなプロジェクトなどを行っていました。農業関係におけるプロジェクトも昔から行っており、特にブラジルのセラード開発 (ブラジルの中央の砂漠を灌漑し、緑地化して食料の生産地域に変える)は非常に効果があったと思います。

現在日本に輸入されている鮭はチリで養殖されたものが多いのですが、これもJICAがチリで鮭養殖の技術協力を行い、それが現地で広まり、鮭はチリの大きな輸出品になりました。他にも日本の交番制度をブラジルに技術協力し、治安の改善に役立て、今度はブラジルの人達と共に他の国へ制度を広げるという三角協力も行っています。

・竹内様の今までのキャリアの中で、印象に残っている事業はどのようなものですか。

業務において印象に残っているものはやはり上手く進まなかったプロジェクトです。最近では、ボリビアの地熱発電の事業は、実際に計画がなされてから借款契約が結ばれるまでとても時間がかかってしまいました。この計画はボリビアの標高5000mに近い所に地熱発電所を作るというものでした。技術的に難しく環境的にも配慮が必要で、コストもかかります。さらに南米では未だ地熱発電が稼働している例がないこともあり、説明をするのが大変でした。また、現地で事業を担当している方が変わると考え方も変わってしまうような事態もあり、色々な困難にぶつかりました。。環境にやさしい地熱資源を活用してボリビアの電力エネルギー事情の改善に繋がると考えこの計画を立てたのですが、これらの問題を調整するのがとても大変でした。

JICA職員として働くという事

・そもそも、なぜ国際協力という現在のキャリアに進もうと思われたんですか。

もともと海外に出る仕事をしたいと思っていたのですが、日本の力を使って皆の為になるようなことをしたいと考えていました。公共性や社会貢献ということを考えた上で、ODAを通じて日本の経済力を使いながら、世界の国々に貢献できる様な仕事がしたいと考えたことが動機になります。

・業務を行う上でどんな事を日常的に心掛けていますか。

「どこを向いて仕事をするか」ということです。我々の業務の相手は常に途上国の人達なので、そのことを忘れず仕事をするということを心掛けています。また、上手く進まなかった案件が成功し、動く様になった時にやりがいを感じます。困難があってこそ、それを乗り越えられた時にやりがいを感じるのだと思います。具体的にはボリビアの案件に際して、相手を何度も説得し、最終的に相手側が説得に応じその案件が動くようになった時にやりがいを感じました。

学生に向けて

・「グローバル人材」という言葉がありますが、竹内様はどのようにその言葉を定義しますか。とりあえずある程度語学は出来なければいけないと思います。しかしそれだけで良いかというとそうではなく、色々な国の人達と話しをしていく中で、自分の意見をしっかりと言える人がグローバルな人といえるのではないでしょうか。日本人としてのグローバル人材ということになれば、日本人として自分の意見をしっかり持っている人になると思います。自分の意見を持っていないと議論すら出来ません。議論する為には言語が出来ないと進みませんが、その上で中身がないと成り立ちませんから。

色々な国の人達と話しが出来るようになり、それを通して自分の意見が持てるようになる所が留学をする意義だと思います。日本では日本人の人達としか話せませんが、アメリカでは自分とは違った文化で育った別の価値観を持った人達と話しをする事が出来るので、そういった意味で留学することは非常に貴重な機会になると思っています。

・最後に、留学中にしておいた方が良いことなど、留学中の学生に向けてメッセージをお願い致します。

最低限言葉をちゃんと話せるようになることは必要です。ただ話せるのと、きちっとした話し方が出来るというのでは全く違うと思います。我々の様に外国で仕事をするようになると、それなりにしっかり言語を話せないと駄目だと思います。さらにアメリカのことをよく知るというのも重要なことです。日本に帰国するとアメリカのことを聞かれると思います。特に日米関係はどんな分野でも重要になってくると思います。せっかくアメリカにいるのだから、英語を究めてアメリカについて知ること、この二つは留学するにおいて非常に重要だと思います。

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